日本人と外国人が国際結婚をする場合、どこの国の法律が適用されるかご存知でしょうか?
日本の法律を適用するのか、外国人の法律を適用するのか、国際結婚の婚姻手続きの過程ではいずれの国の法を適用すべきかが問題となります。日本では法の適用関係に関する事項を規律しているのが「法の適用に関する通則法」(日本の国際私法)です。
日本、韓国、中国(中華人民共和国)ではそれぞれの国の法律で婚姻適齢(結婚ができるか年齢)が異なります。日本では、
男性は18歳・女性は16歳、韓国では男・女共に18歳、中国では男性は22歳・女性は20歳です。
国籍 | 男性 | 女性 |
日本 | 18歳 | 16歳 |
韓国 | 18歳 | 18歳 |
中国 | 22歳 | 20歳 |
先ず、日本と韓国を例にとって考えてみましょう。
たとえば、日本の16歳の女性が韓国の18歳の男性と日本で結婚する場合はどうでしょうか。法の適用に関する通則法によると、「婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。」(本国法主義)とされています。したがって、日本の女性には日本法が適用され、韓国人男性には韓国法が適用されます。結婚前の当事者は対等であり、各当事者はそれぞれの本国法に照らして判断される必要があるからです。このように当事者の本国法のみが適用されるのは、婚姻適齢、父母の同意などの場面です。
これに対して、同じ婚姻手続きの過程であっても、近親婚の禁止、重婚の禁止、再婚禁止期間などの場面では、当事者の本国法の要件を満たすだけではなく、更に相手方の法の要件をも満たす必要があります。
たとえば、一夫多妻の婚姻を認める国(重婚が法律上認められている国)の男性が、既に他の女性と婚姻中である場合、日本国内で日本人と結婚しようとしても認められません。また、日本では女性について、前婚の解消又は取消しの日から100日(平成28年6月7日公布・施行)を経過した後でなければ、再婚することができないという再婚禁止期間を設けています《詳しくは法務省HP(再婚禁止期間の短縮等)》。これに対して、韓国法には再婚禁止期間がありませんが、韓国人女性が他の男性と離婚して仮に3ヵ月を経過したに過ぎないのであれば、日本人と結婚しようとしても、日本法の要件を満たしていないため結婚することができません。
次に、日本と中国を例にとって考えてみます。
22歳の日本人男性と中国の16歳の中国人女性が結婚する場合はどうでしょうか。先程と同じように日本では各当事者それぞれの本国法に照らし判断します。すると、16歳の中国人女性には、中国法が適用されますので、婚姻の要件を満たしていないことから20歳に達するまでは日本においても結婚することはできないとの推論ができます。
しかし、中国では「中華人民共和国渉外民事関係法律適用法」(中国の国際私法)により、「当事者の共通常居所地の法律を適用し、共通常居所地がないときは、共通国の法律を適用し、共通国籍がなく、一方の当事者または国籍国において婚姻を締結するときは、婚姻締結地の法律を適用する。」とされています。
また、日本の「法の適用に関する通則法」(日本の国際私法)には、「反致(その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。)」というものが規定されており、自国(日本)の国際私法のみならず、他国(中国)の国際私法をも考慮して調和を図ろうとしています。
このことから、最終的にどこの国の法律を適用するかについては、次の流れになります。
【16歳の中国人女性の法の適用の流れ】
1.日本法(日本の国際私法:本国法主義) ※中国法を適用すべき
↓
2.中国法(中国の国際私法) ※当事者の共通常居所地、共通国、婚姻締結地の法を適用すべき
↓
3.日本法(日本の国際私法:反致) ※その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。
↓
4.結果、日本法を適用する。
したがって、この例の結論は、日本の民法を適用し、22歳の日本人男性と中国の16歳の中国人女性は適法に結婚することが可能です。
最後に、婚姻の方式についてはどこの国の法律が適用されるのでしょうか?
そもそも婚姻の方式には、役所での儀式、宗教上の儀式、一定期間の掲示、役所への届出など国それぞれに様々な方式があり、これらを行うことで婚姻の成立やその時点を公示する意味を持ちます。
法の適用に関する通則法(日本の国際私法)によると、「婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。」(挙行地主義)とされています。ちなみに日本では、届出が婚姻の方式とされています。したがって、外国人同士が日本において結婚する場合でも、市区町村役場に婚姻届を提出すると、外国人同士であるため戸籍は編成されませんが、婚姻届受理証明書が発行されます。(婚姻受理証明書を本国に提出することで、日本で婚姻が有効に成立したことの証明になります)
原則は、挙行地主義ですが、例外として「当事者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする。」とされています。当事者の双方が外国人である場合、当事者の一方の国の方式によっても有効とされています。原則どおりの挙行地主義でも、例外として当事者の一方の本国法による方式のどちらであっても適用できる(有効である)との趣旨です。
以上は、当事者双方が外国人のケースで検討しましたが、先の条文には続きがあり、「ただし、日本において婚姻が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、この限りではない。」(日本人条項)との規定があります。つまり、日本人が婚姻の当事者となる場合は常に日本の法を適用すべきことになります。これは、日本人については、戸籍への記載のない婚姻を認めない趣旨です。日本人と外国人の婚姻が海外で挙行され、挙行地法の要件を満たせば、日本でも有効とされます。ただし、日本の戸籍に記載させるには海外で婚姻を挙行した事実を、日本の市区町村役場に(報告的)届出を行う必要があります。