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技能実習法令が規定する基準に違反して行われる技能実習のリスク

先日、団体監理型(非営利の監理団体が技能実習生を受け入れ傘下の企業等で実習を行う形態)で実習生を受け入れる実習実施者(傘下企業等)とのお話の中で、次のような事がありました。

【事例】

『現在受け入れている又はこれから受け入れる技能実習生(技能実習生から特定技能への変更を予定する者)について、外国にて取り決めのある上限手数料以上の手数料を支払って来日していることが、実習実施者側の行う監査により発覚した場合には、その超過手数料を実習実施者側のルールにより、実習実施者が当該技能実習生に負担しなければならない。』

【結論】

実習実施者側の事情・内部ルールに触れることはしませんが、結論として責任を問われるのは一次的には送り出し機関、また、送り出し機関との癒着が確認される場合には監理団体も責任を問われる可能性があります。実習実施者は、特別の事情に無いかぎり不問ではないかと思われます。

ここでルールを犯して利益を得るのは、外国の送り出し機関等であり、もし監理団体も何らかの形で利益を得ていれば、監理団体も本邦の主務大臣から処分等を受けるのは自然なものと考えることが出来ます。

【考察】

1.関係者

団体監理型の技能実習制度の場合、一般的な関係者として、技能実習生等、取次ぎ送り出し機関(外国の準備機関を含む)、監理団体、実習実施者(傘下企業等)となります。

2.手数料の上限

技能実習制度において、技能実習生等(候補者を含む)が各国の送り出し機関(外国の準備機関を含む)に支払う費用については、外国政府の定めるルールの中で上限が定められています。

例えば、詳細は割愛しますが、ベトナムであれば3,600USドル以下(3年契約の場合)、1,200USドル以下(1年契約の場合)とされており、ミャンマーであれば2,800USドル以下とされているようです。

なお、特定技能制度では、各国で技能実習制度とは別に手数料の上限が設定されています。

3.関係者の責任

(1)外国の送り出し機関

 ア.認定された送り出し機関

外国の送り出し機関については、日本と外国間の二国間取り決めにより、各送出し国政府において自国の送り出し機関の適格性を個別に審査し、適正な者のみが認定を受けることになっています。

このことから、先ずは外国の定める法令に基づいて、送り出し機関の認定の取り消し等の処分、処罰が予想されます。次に外国政府での認定が取り消されますと、当該送り出し機関は少なくとも日本に対して送り出しをすることが出来なくなります。

イ.取次ぎ送り出し機関

技能実習制度では、実習実施者(傘下企業等)が、「技能実習計画 認定申請書」(以下「認定申請書」という)を作成し外国人技能実習機構へ申請します(入管へビザ申請を行う在留資格認定認定証明書交付申請書とは異なります)。

この認定申請書の添付書類には、参考様式として「技能実習計画の認定に関する取次送出機関の誓約書」が用意されており、

当該誓約書の作成責任者は文字通り取次送出機関とされています。

誓約事項としては以下のように記載されています。

【誓約事項】

  1. 保証金の徴収その他名目のいかんを問わず、団体監理型技能実習生又はその親族その他の関係者の財産を管理することは、決していたしません。
  2. 団体監理型技能実習生が技能実習に係る契約を履行しなかった場合に備えて、団体監理型技能実習生、団体監理型実習実施者監理団体又は外国の準備機関との間で、違約金等の制裁を定めることは、決していたしません。
  3. 団体監理型技能実習生等が団体監理型技能実習の申込みの取次ぎ又は外国における団体監理型技能実習の準備に関して当機関に支払う費用について、団体監理型技能実習生等にその額及び内訳を十分に理解させた上で合意しています。
  4. 上記のほか、技能実習に関する法令に違反することは、決していたしません。

ウ.外国の準備機関

外国の準備機関については、「外国の準備機関の概要書及び誓約書」が用意されており、作成責任者は外国の準備機関であり、誓約事項は以下のように記載されています。

~省略~

『上記の記載内容は、事実と相違ありません。また、技能実習の準備に関し、技能実習に関する法令に違反することは、決していたしません。』

 

 さらに、認定申請書の添付書類には、参考様式として「技能実習の準備に関し本国で支払った費用の明細書」が用意されており、当該明細書の作成責任者は取次送出機関とされています。

同明細書の後段部分には、以下のように記載されています。

取次送出機関の作成責任者が押印する直前の本文

『技能実習生から2《取次送出機関が徴収した費用の名目及び額》に記載の金額の費用を徴収し、その内訳について技能実習生に十分に理解させるとともに、送出に関与した他の機関が技能実習生から3《外国の準備機関が徴収した費用の名目及び額》に記載の金額の費用を徴収したことを把握しました。また、2及び3に記載の費用以外の費用については、技能実習生が徴収されていないことを確認しました。

エ.所見

誓約が書面でなされているところ、申請内容と異なる事実が発覚した場合、送り出し機関(外国の準備機関を含む)の責任は免れないものと考えます。

(2)日本の監理団体

ア.監理団体は許可制

監理団体が監理事業を行うにあたり、あらかじめ主務大臣(法務大臣・出入国在留管理庁長官・厚生労働大臣)から監理団体の許可(事業所を行う数に応じた許可証の発行)を受ける必要があります。

また、技能実習制度を団体監理型で行う場合、実習実施者(傘下企業など)は、監理団体から、指導・支援及び監査を受け実習を行うことになります。

イ.許可基準

監理団体の許可基準は、技能実習法(以下「法」という)や技能実習法施行規則(以下「規則」という)で規定されていますが、いくつかを抜粋します。

  •  監理団体の業務の実施の基準に従って事業を適正に行うに足りる能力を有すること(法25条1項2号)
  •  基準を満たす外国の送出機関 と、技能実習生の取次ぎに係る契約を締結していること(同6号)

〔法25条1項6号の説明〕

「基準を満たす外国の送出機関」について

外国の送出機関の要件の一つとして以下が規定されています。

技能実習等(技能実習生又は技能実習生になろうとする者)から徴収する手数料その他の費用について、算定基準を明確

に定めて公表するとともに、当該費用について技能実習生等に対して明示し、十分に理解をさせること(規則25条3号)

☞「技能実習生の取次ぎに係る契約を締結していること」について

監理団体が技能実習生になろうとする者から求職の申込みの取次ぎを外国の送り出し機関から受けようとする場合には、

外国の送り出し機関との間で取次ぎに係る契約を締結していることが必要です。

ウ.許可基準のまとめ

監理団体の許可制はこのような建付けになっていることから、送り出し機関は適正であることは元より、監理団体と外国の送り出し機関との間にはあらかじめ取次ぎに係る契約の存することが基準の一つとされています。

エ.運営基準(業務の実施の基準)

許可制とは別に監理団体の遵守事項として運営基準が規定されています。監理団体は、許可を受けた後は、運営基準に従って、業務を行わなければなりません。

運営基準のいくつかを抜粋してご紹介します。(法25条1項2号、規則52条1号ないし16号)

  •  外国送出機関との取次契約締結時の確認及び契約書記載(規則52条1項5号)
  •  申込みの取次ぎは、外国の送出機関からのものに限ること(同6号)
  •  技能実習計画の作成指導 (同8号)
  •  認定計画と反する内容の取決めをしないこと (同12号)

オ.認定申請書の作成を指導する立場にある監理団体

先に述べました「技能実習計画 認定申請書」の申請者は、実習実施者(企業など)です。しかし、当該認定計画の作成につき申請者を指導するのは監理団体であり、監理団体も当該認定申請書に押印が必要です。

また、当該認定申請書の記入欄においては、監理団体の計画指導担当者の氏名も記入が必要です。

このことから、当該認定申請書の添付資料である以下の書類について事実と異なる記載(事例では技能実習生の支払った手数料が上限を超えていること)が発覚した場合、認定申請書の作成について指導的立場にある監理団体に、説明や立証なく「責任は無い」とまでは言い切れないものと推察されます。

 

<認定申請書の添付書類(抜粋)>

  • 「技能実習計画の認定に関する取次送出機関の誓約書」
  • 「外国の準備機関の概要書及び誓約書」
  • 「技能実習の準備に関し本国で支払った費用の明細書」

エ.所見

これまでのことを踏まえますと、冒頭の事例にあっては、監理団体に直接的な非の無い場合であっても許可基準、運営基準又はその両方に抵触していた(する)恐れがあります。

もちろん監理団体が外国の送り出し機関と癒着して手数料の一部を受けていたのであれば直に許可基準や運営基準に抵触していた(するもの)と考えられます。

 

また、実際に送出し機関と監理団体との癒着問題は少なくないようであり、JITCO(公益財団法人 国際人材協力機構)においても、技能実習制度での注意事項として「いわゆるキックバックの受領は禁止」が謳われています。

キ.監理団体への処分等(取り消しによる効果)

すでに許可を受けて監理事業が行われていても、監理団体の遵守事項(運営基準)に違反があれば、主務大臣から報告徴収等、改善命令、許可の取り消し、事業停止命令がなされます。

改善命令、事業停止命令となりますと、その旨の公示がなされ、さらに改善命令に従わない場合などは監理団体の許可が取り消され、罰則(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)の対象となるリスクもあります。

許可の取り消し事由はいくつかありますが、取り消しを受けると更に以下の不利益を被ることになります。

  • 原則として全ての技能実習生について、当該監理団体の実習監理の下では実習を継続することは出来なくなること引き続き同一の実習実施者(企業等)で実習を継続する場合には、監理団体の変更が必要となります》
  • その後5年間監理事業を行うことができなくなること

 

(3)日本の実習実施者

ア.認定申請書の作成者は実習実施者

重複しますが「技能実習計画 認定申請書」の申請者は、実習実施者(企業など)です。

先に述べたとおり作成指導者である監理団体も押印しますが、申請者である実習実施者も押印することになります。

また、この認定申請書の添付書類には、参考様式として「申請者の誓約書」が用意されており、当該誓約書の作成責任者は実習実施者とされています。

誓約事項は以下のように記載されています。

 

【誓約事項】

  1. 保証金の徴収その他名目のいかんを問わず、技能実習生又はその親族その他の関係者の財産を管理することは、決していたしません。
  2. 技能実習生が技能実習に係る契約を履行しなかった場合に備えて、技能実習生、監理団体(団体監理型技能実習の場合)、取次送出機関(団体監理型技能実習の場合)又は外国の準備機関との間で、違約金等の制裁を定めることは、決していたしません。
  3. 技能実習生に対して、暴行、脅迫、自由の制限その他人権を著しく侵害する行為を行ったことはありませんし、今後も決していたしません。また、技能実習生に対して他からこうした行為が行われていないかどうかについて、定期的に確認します。
  4. 入国後講習における技能実習生の法的保護に必要な情報についての科目が終了する前、及び当該科目に係る入国後講習の期間中は業務に従事させることは、決していたしません(第1号企業単独型技能実習の場合)。また、入国後講習の期間中に技能実習生を業務に従事させることは、決していたしません(第1号団体監理型技能実習の場合)。
  5. 技能実習生の目標の達成状況の確認を技能検定又はこれに相当する技能実習評価試験により行わない場合にあっては、技能実習指導員が技能実習責任者の立会いの下で技能実習の目標を全て達成していることを確認するなど、評価の公正な実施を確保します。
  6. 労働者災害補償保険への加入又はこれに類する措置を講じます。
  7. 技能実習生の帰国旅費(第3号技能実習の開始前の一時帰国を含む。)を負担するとともに技能実習生が円滑に帰国できるよう必要な措置を講じます(企業単独型技能実習の場合)。
  8. 技能実習計画と反する内容の取決めをしたことはありませんし、今後も決していたしません。
  9. 監理団体から監理費として徴収される費用について、直接又は間接に技能実習生に負担させることは、決していたしません(団体監理型技能実習の場合)。
  10. 不正に技能実習計画の認定を受ける目的、その他出入国又は労働に関する法令の規定に違反する事実を隠蔽する目的等で、偽変造文書等を行使したり提供したりしたことはありませんし、今後も決していたしません。
  11. 技能実習計画の作成について指導を受けた監理団体による実習監理を受けることとします(団体監理型技能実習の場合)。
  12. 除染等業務及び東京電力福島第一原子力発電所敷地内における業務を実習内容に含む技能実習は、決して行いません。
  13. 上記のほか、技能実習に関する法令に違反することは、決していたしません。万一、技能実習に関する法令に違反してしまったときは、直ちに外国人技能実習機構(企業単独型技能実習の場合)又は監理団体(団体監理型技能実習の場合)に報告します。
  14. 申請書類一式について、記載内容は、事実と相違ありません。

イ.実習実施者への処分等(取り消しによる効果)

通常、冒頭の事例においては、実習実施者が不正に関わることは考え難いと思われます。

しかし、認定計画が認定基準のいずれかに適合しなくなったとき(法16条1項柱書、法9条各号)等の取り消し事由のいずれかに該当すると、主務大臣は、認定計画を取り消すことが出来るものとされています。

計画認定が取り消しされるとさらに以下の不利益を被ることになります。

  • 原則として実習実施者に在籍する全ての技能実習生について、当該実習実施者の下では実習を継続することは出来ない
  • 団体監理型の場合、監理団体の協力を得て、在籍している技能実習生の転籍を行うこ
  • 取り消しの日から5年間は新たな計画認定を受けることができない
  • 計画認定の取り消しが公示されること

 

ウ.誰が処分を行うかで異なる態様 

実習実施者に対する処分等は、誰が行うかによって、態様が異なります。

  • 主務大臣によるもの

報告徴収等。これを拒んだり、虚偽の回答をすると計画認定の取り消しとなり、場合によっては罰則(30万円以下)の対象

となります。また、実習計画に従って技能実習が行われていないとき、入管法令や労働法令に違反した場合等、改善命令を

発することが出来ます。

改善命令に従わない等の場合には計画認定が取り消され、罰則(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰則)の対象と

なります。さらに改善命令を受けた旨は公示され周知の事実とされます。

  • 外国人技能実習機構によるもの

  報告徴収等。虚偽の回答をすると計画認定の取り消しとなります。拒んだり、妨げたりすると計画の認定がなされない

  ことになります。

(4)技能実習生

来日を果たしたいとの想いから、事実と異なると理解しつつも自ら申請書作成に協力することが予想されます。また、自ら詳しい説明を求めることなく又は取次ぎ機関から詳しい説明を受ける機会を与えられずに渋々書類作成に協力することも予想されます。ひどい場合には本人が書類を目にしていないケースも想定されます。

 

認定申請書の添付書類には、参考様式として「技能実習の準備に関し本国で支払った費用の明細書」(外国語併記)が用意されており、当該明細書の作成責任者は取次送出機関とされているのは先述のとおりです。

しかしながら、同明細書の末尾には技能実習生本人の署名が必須となっています。

技能実習生の署名の直前の本文は以下のように記されています。

 

~技能実習生が署名する直前の本文~

『取次送出機関及び送出に関与した他の機関に2《取次送出機関が徴収した費用の名目及び額》及び3《外国の準備機関が徴収した費用の名目及び額》に記載の金額を支払い、その内訳について理解しました。また、2及び3に記載の費用以外の費用については、徴収されていません。

 

どのような経緯で事実と異なる書類作成や申請がなされたのかをも考慮すべきと思いますが、ケースによっては技能実習生本人の責任が問われる可能性も懸念されます。

具体的な処分等については割愛します。