特定技能ビザについて、(ここでは1号特定技能外国人について取り上げますが)、本邦において行うことができる活動は、「法務大臣が指定する本邦の公私の機関との雇用に関する契約に基づいて行う特定産業分野であって法務大臣が指定するものに属する法務省令で定める相当程度の知識又は経験を必要とする技能を有する業務に従事する活動」と規定されています。
ここでいう特定産業分野とは、「人材を確保することが困難な状況にあるため外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野として法務省令で定めるものをいう。」をいいます。
つまり、特定技能ビザの創設された目的は、技能実習制度とは異なり、平たく言えば「人手不足の解消」となります。あくまで特定技能ビザは「法務省令で定める・・技能」であって、技術・人文知識・国際業務等の「専門的・技術的な分野」のビザとは異なりますし、コック等に代表される技能ビザ(産業上の特殊な分野に属する熟練した技能。いわゆる熟練工)とも異なります。
<ご参考>
1号特定技能ビザ・・相当程度の知識又は経験を必要とする技能
2号特定技能ビザ・・熟練した技能
さて、特定技能ビザについて適法に許可を得ること又は維持することに話を戻しますが、これまで当事務所が特定技能ビザの申請に関わる中で、「真に在留資格該当性を満たしているのか」との疑念を抱く機会が複数散見されています。
具体的には、以下のようなものです。
1)「事前ガイダンス」が基準に則り適切に行われているか疑わしい
2)「自国等の機関に支払った費用」について適正に記入がなされているか疑わしい
1)について
1号特定技能外国人に対して行う支援の一つです。
事前ガイダンスは、ビザ申請書作成に際して、「申請書」、「事前ガイダンスの確認書」、「1号特定技能外国人支援計画書」などに関わってきます。
事前ガイダンスは、1号特定技能外国人が十分に理解できるまで行う必要があり、基準によると3時間程度行うことが必要とされています。
私がこれまで目にした事前ガイダンスの確認書には、登録支援機関による説明が10時間や12時間おこなったとの記入がなされているケースがありましたが、面談した当該外国人にこれを確認したところ、実際には「1時間も行っていない」ということが複数ありました。
基準を満たしていないことが判明した場合、在留資格該当性がありません。
2)について
特定技能ビザの審査では、技能実習制度の問題点の反省を受けたものと推察されますが、特に「合理的な説明の無い中で外国人に過度な経済的負担を生じさせていないこと」に注視しているように思われます。
この点、ビザ申請書の作成に際しては、「申請書」、「特定技能雇用契約書」、「雇用条件書(賃金の支払を含む)」、「事前ガイダンスの確認書」、「支払費用の同意書及び明細書」、「徴収費用の説明書」などに関わってきます。
私がこれまで目にしたこれら書類(日本に在留する外国人であって特定技能ビザへの変更申請)には、自国等の機関に支払った費用について何ら記入がなされていなかったケースにおいて、面談した当該外国人にヒアリングしたところ、本邦の人材紹介会社に数十万円を支払ったとの回答を複数確認しています。
ちなみに「自国等の機関」は、特段対象を限定するものではなく、特定技能雇用契約の申込みの取次ぎ又は活動の準備に関与した全ての機関というとされています。このことから外国の機関のみならず本邦の会社等も含まれると考えます。
上記1)2)いずれにしても、最終的には外国人本人がサインをすることから本人にも責任があるものと考えられますが、基準を満たしていないことが判明すれば、基準に適合しておらず、在留資格該当性が無いことになります。
在留資格資格該当性の無い就労活動は不法就労(入管法19条1項1号)となります。
この場合、外国人と事業主に分けて問われる罪を以下に記します。
<不法就労の外国人>
特定技能外国人は資格外活動違反(入管法70条1項4号、73条)となり、退去強制(入管法24条4号イ・ヘ)となる可能性があります。
また、偽りその他不正の手段により、ビザ申請の許可を受けていれば在留資格等不正取得罪(入管法70条1項・1項2号の2)が成立する可能性があります。
<不法就労外国人を雇用した事業主等>
不法就労をさせた事業主(受入れ機関)等には不法就労助長罪(入管法73条の2第1項1号)に問われ、不法就労活動をほう助した者には資格外活動ほう助罪(入管法70条1項4号、73条、刑法62条1項)に問われる可能性があります。
また、偽りその他不正の手段により、ビザ申請の許可を受けていれば在留資格等不正取得罪(入管法70条1項・1項2号の2)、これに営利目的が認定されると営利目的在留資格等不正取得助長罪(入管法74条の6)の成立する可能性があります。
現業職に関わるビザとして、技能実習制度(主に技能実習法令・労働関係法令)と特定技能制度(主に入管法令・労働関係法令)がありますがいずれもルールが厳格であり、外国人を取り巻く関係機関にあっては、油断やコンプライアンス意識の希薄により法令違反を生じさせ、常に行政処分ほか取り締まりの対象となるリスクをはらんでいます。
特定技能制度では、特定技能外国人に関わる機関として、外国の取次機関(海外からの呼び寄せの場合)、職業紹介事業者、登録支援機関、特定技能所属機関(受入れ機関)がありますが、法令に抵触しますと管轄行政庁による行政処分(指導及び助言、報告徴収、立入検査、登録の取消し、改善命令、事業者名の公表等)や、罰則、過料があります。
違反事実が発見されますと、場合によっては、主に外国人、特定技能所属機関(受入れ機関)に大きな不利益の生じることが懸念されます。その他関係機関も責任を追及される可能性があります。
コンプライアンスには十分にご注意ください。